麻は古来より人間の生活基盤を支えてきた万能資源であった。その主な用途は以下の通りである。
■ 繊維(布・縄・帆など):麻は人類最古の布素材であり、世界各地で衣服や布地に用いられてきた。中国では紀元前4000年頃から麻織物が存在し、日本でも古代より麻布が衣服や履物に使われた。特に強靭な縄・綱が得られるため、船舶のロープ・帆(キャンバス)には麻が不可欠だった。
■ 紙・書物:麻は良質な紙の原料ともなった。中国では漢代に麻と楮(こうぞ)で紙が発明され、以降書物の材料となった。ヨーロッパでも1150年頃、イスラム教徒の支配下にあったスペインで初の麻紙工場が設立されている。現在の紙幣にも麻(または麻に類する強靭な植物繊維)が混合されており、耐久性を高めている。
■ 食用(麻の実・油):麻の種子(ヘンプシード、麻の実)は古来より食用とされ、栄養価の高さから「スーパーフード」として現代でも注目されている。縄文時代の日本でも麻の実を炒って食べたり油を絞って利用していた形跡がある。麻の実は七味唐辛子の材料にも伝統的に含まれ、中世ヨーロッパでも麻のお粥が食された。
■ 医薬:麻は紀元前から薬として用いられてきた。中国の神農本草経に麻が載り、インドのアーユルヴェーダ医学でも処方に組み込まれ、古代中東や欧州の医学者も鎮痛・催眠薬として調合に加えた。19世紀には麻由来の医薬品が世界的に流通し、現代でも医療大麻として癌やてんかん患者の苦痛軽減に使われている。
■ 建材・工業材料:麻の茎(おがら)は中空で軽量かつ調湿性に優れ、建築資材として古くから利用された。日本では茅葺屋根の下地に麻の茎を使った例があり、現代では麻の茎チップと石灰から作るヘンプクリート(麻コンクリート)がエコ建材として注目されている。